粋な江戸そばの食べ方
そばの食べ方なんぞは講釈なしに好きに食べたらよろしいのですが、こうして食べると打ち手の気概も伝わって、一層美味しくそばを味わえますよというお話です。
先ず、盛りの頂上辺りから1~2本を摘み、そばつゆに付けずに啜ってみる。そばの持つ本来の味が広がります。
次に一口で啜れる量のそばを摘み、つゆに三分の一から二分の一ほど付けて啜ります。一気に啜ってみると、喉から鼻腔に抜けるその瞬間にそば特有の香りが楽しめます。追いかけるように、つゆが絡んだそばがつるんと飛び込んで口の中で合体して、噛むと美味さが広がります。
「一口で啜れる量のそばを摘む」ことが大事です。
和食の口中調味の最たるものです。そして、笊に残ったそばは箸を立てて摘むと上手に摘めます。
試してみてはいかがでしょう。
この食べ方(手繰り方)は、夏目漱石の「吾輩ハ猫デアル」で迷亭が苦沙弥先生の細君に向って講釈する場面や、河竹黙阿弥の歌舞伎「雪(ゆきの)暮夜(ゆうべ)入谷(いりやの)畦道(あぜみち)」の蕎麦屋で片岡直次郎(直侍)がそばを食べるシーンでもあります。直次郎を探している捕り手が、モグモグとかっこ悪く食べ、その後に登場する直次郎がすすっと粋に食べる演出があるそうです。また、「きれいな姿勢で箸を正しく持ち頂きますと言い、三分の一ほどつゆに付けて啜り、残さずにきれいに食べてご馳走さまと言う」食べ方は、江戸ソバリエでも推奨しています。
ここでいう江戸そばは一言でいうなら、昔から江戸で食べられていた濃いめのつゆに付けて比較的細打ちの「もりそば」です。
「江戸蕎麦」とはについて、『蕎麦の技術が落ち着いて確立した1800年以降、数度にわたる栄枯盛衰、淘汰の波をからくも乗り越えて生き残り、現代にまで至った数少ない蕎麦店に伝わる「蕎麦・蕎麦汁製造技術」でいまだに蕎麦をこしらえている「木鉢会」の蕎麦屋の蕎麦、およびそれと同じやり方で蕎麦を商っているところの「蕎麦」』と、元「有楽町更科」四代目の故藤村和夫氏は「江戸蕎麦への道」(2009年・NHK出版)で述べています。